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【CEDEC 2016】カーネギーメロン大学・金出武雄氏の基調講演「画像を調理する」レポ―研究におけるストーリーの重要性とは

CEDEC2016の初日、カーネギーメロン大学ロボット研究所の金出武雄教授は、研究におけるストーリーとは何か、について「画像を調理する:面白く、役に立ち、ストーリーのある研究開発のすすめ」という基調講演で解説しました。

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ある研究が(これはゲームにも置き換えられるでしょう)単独で存在することは滅多にありません。一つの研究には、それを生み出す背景となる研究があり、さらにそこから発展した別の研究が存在します。これらが積み重なって業績となります。つまり研究者の業績とは大河のようなものであり、一つのストーリーだともいえます。一方で個々の研究においても、さまざまなストーリーが存在します。

この点にどれくらい自覚的であるか。CEDEC2016の初日、カーネギーメロン大学ロボット研究所の金出武雄教授は基調講演「画像を調理する:面白く、役に立ち、ストーリーのある研究開発のすすめ」で自身の業績を振り返りつつ、どのようにストーリーが作られていったか。そして研究におけるストーリーとは何かについて、研究者の姿勢についても触れつつ、解説しました。

◆スーパーボウル中継に使われた「EyeVision」


画像処理・ロボット・飛行機・自動運転など、これまで興味のおもむくままに40年近く研究をしてきたという金出氏。その中でも最良の瞬間(=モメンタムフェイム)として、2001年の米スーパーボウル中継で使用された「EyeVision」が上げられました。

スーパーボウルは全米アメリカンフットボールの頂点を決める大会で、視聴率70%を数える国民的行事。EyeVisionは2001年のフロリダ・タンパで行われたスーパーボウル中継のために、米三大ネットワーク局の一つ、CBSが特注したマルチカメラ3Dリプレイシステムです。スタジアムに設置された33台のカメラをリアルタイムに同期させることで、タッチダウンなどの決定的瞬間を、まるで映画『マトリックス」のバレットタイムのように画面を回転させながらリプレイ再生することができます。


もっとも『マトリックス』のバレットタイムが静止画だったのに対して、EyeVisionは動画である点がミソ。しかもグラウンドのどこでそうした決定的瞬間が起きるかわかりません。このシステムを共同開発したのが金出氏で、技術解説のためにスーパーボウルで25秒間出演。広告出稿額が1秒1000万円と言われるスーパーボウルで25秒間出演し、「2億5千万円の価値がある」と言われたそうです。

◆EyeVision開発に至る長い道のり


もっとも、この研究には長いストーリーがあります。もともと1990年代からバーチャルリアリティについて興味があったという金出氏。しかし「VR HMDで仮想空間をのぞき見ることができるなら、その反対に現実世界を仮想空間に取り込む必用もある」と考えて、屋外で使用できる3Dスキャン技術を開発。「ちまちましたことをやっても人は納得しない」をモットーに、ケープ・カナベラルのロケット発射台の3Dスキャンデータを作成することに成功します。


この研究はその後、ロボットヘリコプターが上空で自動飛行しながら、森林の様子をリアルタイムに3Dスキャンする研究に発展します。金出氏はこれをベースに上空からロボットヘリコプターが地形をスキャンし、その情報をドローン群と共有して活用するといった研究への応用も想定。この技術を用いて、東大・安田講堂周辺の3Dマップ作成なども行われました。

一方で3Dスキャンができるなら、ビデオ映像に奥行き情報も加えられるはずだとして、「CMU Video-Rate Sterem Machine」というカメラシステムを開発。5個のカメラで映像と奥行きを秒間30フレームで記録することに成功します。そこから「複数のカメラを同時に回して360度どこからでも記録し、再生できるカメラを作ろう」と研究を発展。51個のVTRカメラを用いて物体を360度で記録する「3D DOME」などを開発しました。


当初はこうしたマルチプルカメラを埋め込んだ手術室を作り、手術の様子を録画したCD-ROMを作って販売しようと構想していた金出氏。しかし、そう簡単に話がうまく進むわけもなく、作ったはいいものの具体的な用途が見いだせないままだったといいます。これに目をつけたのがCBSで、スポーツ中継に使用できると提案。そこから「EyeVision」の共同開発につながったというわけです。


その後、マルチプルカメラ技術はエンタテインメントをはじめ、さまざまな領域で活用されるようになりました。本研究も今では480個のカメラを使うまでに進化しています。もっとも金出氏は、初めて5個のカメラを使ってマルチプルカメラを開発し、論文投降したところ「こんな不必要な数のカメラを使う、高価な道具は許されない」という理由で、リジェクトを受けたとあかしました。「いかに専門家の考え方が凝り固まっているかの良い例だと思います」(金出氏)

◆素人のように考え、玄人として実行する



金出氏は「成功するアイディアは単純で素直な発想から生まれることが多いが、専門的な知識がそうしたアイディアを往々にして潰してしまう。その一方で素直な発想を実行に移すには、専門的な知識と技が不可欠」と指摘します。大切なのは「素人のように考え、玄人として実行する」こと。実際マルチプルカメラも「カメラが1台なら反対側が写せない。だったら複数台のカメラで撮影し、お互いを同期させれば良い」という素直な発想がきっかけだったといいます。

金出氏は「いい加減な論理のようにみえても、ある結論に達したら、ひとまず許す大らかさが大切」だとします。その好例としてドイツの気象学者アルフレート・ヴェーゲナーが1912年に提唱した大陸移動説にふれました。「南米大陸の東側とアフリカ大陸の西側が似ている」点に着目した直感力と、大陸が移動したからという大胆な仮説がなければ、大陸移動説は生まれませんでした。もっとも大陸移動説が評価されたはヴェーゲーナーの死後、1950年代に入ってからとなります。


そしてもう一つ大事な点が、これまで何度も出てきた「ストーリーの構築」です。その研究がどういったところに役に立ち、最大限ヒットしたらどういった影響を社会に及ぼすことができるのか。こうしたストーリーがハッキリしている研究は成功しやすく、他の人をどんどん巻き込むエコシステムが作りやすいとします。エコシステムができると、産学協同プロジェクトなども作りやすく、研究成果を応用することも容易になります。

逆に金出氏は研究の価値について「新規性に価値があるのではなく、社会で役に立つから価値があるのだ」と指摘。何の役にたつかわからない、研究のための研究になってはいけないと釘を刺しました。その上で「学生は全体を一気に捉えようとするから失敗する。全体を要素に分解することで解き方(=社会の中での役立たせ方)が見えてくるし、そうした問題を設定することが重要だ」と語りました。

◆全体を細分化し、成功に至るストーリーを明確にする



ただし、研究の価値を予測することはまた、大変難しいのも事実です。前述の「EyeVision」誕生秘話もその一つで、価値を決めたのは外部の視点でした。さらに金出氏はオプティカルフローの基本的な考え方の一つであり、自身の名前もついた「LucasKanade法」についても知られざるエピソードを披露。本研究はもともと学生が起案してきた研究であり、自分では時代遅れの方法だと思っていたので、できるだけ目立たない学会誌に論文投降するように勧めたといいます。

しかし、金出氏の予想を反して本論文は約1万回の引用数を重ねるなど、金出氏の論文の中でもっとも引用回数の多い論文となります。ここから金出氏は「学生は先生の言うことを聞いてはいけない」と笑いを誘いました。その上で「結果を人に納得させる上で必用なのは『質』と『量』」であること。そして「本当に動くモノが人を納得させる」と語りました。


現在、金出氏は「監視カメラのような低解像度の映像に写された人の顔から、高解像度の人の顔写真を作り出す研究」「雨粒の落ちる方向を予測し、そこだけヘッドライトの光を瞬間的にオフにすることで、雨中でも視界を確保して安全に運転できるようにする研究」「対向車線に車が近づいてきたとき、相手の顔を認識して、その方向だけヘッドライトのハイビームを瞬間的にオフにする研究」といった研究に力を入れていると言います。

これらはすべて画像認識技術が使用されています。しかし画像認識というフィールドははてしなく、すべてを捉える大統一理論に最初から挑もうとすると、たいてい失敗してしまいます。むしろ問題を要素に細分化し、焦点の定まった研究(=成功にいたるストーリーが明確である、少なくとも本人には明確に見えている)を行うことが大事だといいます。

多くの学生は「世界を変えるようなことをしたい」と言うが、そこまで意気込まなくてもいい。退官して孫に携帯電話を見せて、このパーツは自分が作ったと言えるような仕事をすれば、それが一番ではないかとする金出氏。そのためには、これまで述べられてきたような研究者としての視点が重要です。「問題はあなたが解いてくれることを待っている」とまとめ、講演を終わりました。
《小野 憲史》

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