CG世界にリアルな“光”をもたらすミドルウェア「Enlighten」―シリコンスタジオのエンジニアが語るその特徴と今後について | GameBusiness.jp

CG世界にリアルな“光”をもたらすミドルウェア「Enlighten」―シリコンスタジオのエンジニアが語るその特徴と今後について

シリコンスタジオのミドルウェア「Enlighten」で実現するリアルな“光”。次世代機への対応も予定する「Enlighten」はどのように活用され、どのような進化を遂げるのか……。同社の吉野潤氏に詳しくお話を伺いました。

ゲーム開発 ミドルウェア
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CG世界にリアルな“光”をもたらすミドルウェア「Enlighten」―シリコンスタジオのエンジニアが語るその特徴と今後について
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ゲームや映画をはじめとする映像の光の表現をリアルタイムに処理するミドルウェア「Enlighten」。このミドルウェアが実現した“リアルタイムグローバルイルミネーション”は、CGの世界に新たな光の表現をもたらし、より効率的に現実に近づけることができるようになりました。

今回はこの「Enlighten」の権利をGeomerics社より譲渡され、日本国内で開発を行っているシリコンスタジオのエンジニア・吉野潤氏をお招きし、お話を伺うことができました。

吉野潤氏

「Enlighten」を用いることでゲーム開発にどのような変化が訪れ、どのような表現を加える事が可能となったのか。そして今後の「Enlighten」の方向性についても伺っています。ゲームや映画のCG表現に興味があるという方は、ぜひチェックしてみてはいかがでしょうか。

「Enlighten」は反射光までをゲーム上で再現できる


――改めて「Enlighten」というミドルウェアがどのような特徴をもったツールなのかを教えてください

吉野潤氏(以下、吉野)「Enlighten」はリアルタイムグローバルイルミネーションを取り扱うミドルウェアです。大きなポイントとしてはリアルタイムであることと、グローバルイルミネーションを扱うことができるということです。

まずはグローバルイルミネーションについて。CGを用いる際は光の挙動を考慮した上で画面を作っていくと思うのですが、光源がある場合はそれによって照らされる直接的な光が一番イメージしやすいのではないかと思います。しかしそれだけではあからさまなCGのような見た目にしかならなないんです。

より現実に近づけるためには、実際と同じように直接光が当たった時に届く光だけではなく、光の当たったものが更に色々なところに反射を繰り返している所も再現する必要があります。それを実現するのが“グローバルイルミネーション”で、壁に当たったライトが間接的に別の場所を照らすといった現象を表現することができるようになりました。

このグローバルイルミネーションを実現するためのツールはいくつかあるのですが、その中でも「Enlighten」は“リアルタイム性”という部分が秀でています。というのも、従来の手法では事前にどのように光が反射するのかを全て計算し、ゲームが動いている最中には固定の物として扱うものがほとんどでした。いわゆる“ライトベイク”ですね。

光の反射や相互作用はちゃんと計算しようとするととんでもない量になってしまいます。特にゲームのようなフレームレートや処理速度にシビアなアプリケーションは、ランタイムのバジェットが限られるので、こういったアプローチが主流になっていたんです。

対して「Enlighten」は、光の相互作用の計算の一部を事前に、残りをゲームが実行されている最中に行います。これによって何が得られるのかというと、例えば、朝・昼・晩といった時間経過や天候の変化をよりリアルに表現することができます。太陽の光の角度は時間とともに変化するので、この間接光を表現するには常に計算するしかないんです。

これをベイクのような今までの手法で解決しようとすると、方法が無いわけではないのですが素直には行かないことが多いです。そういった時に「Enlighten」を用いるとその計算をリアルタイムに行うので、複雑なやり方をしなくても時間経過の表現をシンプルに組み込むことができます。ライティングが変化する状況下で常に正しいグローバルイルミネーションの情報を用意しておくのは難しいのですが、「Enlighten」はゲームの実行中に必要に応じて計算を行うため、これを実現することが可能です。

こういったところから主な「Enlighten」のユーザーは、ゲームに開発に関わる方になります。一部映像系や建築系でご使用頂いた事例も聞いていますが、やはり現状は殆どゲームです。この辺りはゲームが特にリアルタイム性を要求される分野だからではないかと考えています。


権利移管後に築いたシリコンスタジオのユーザーサポート体制


――2017年にGeomericsから各種権利を譲受した後、シリコンスタジオではどのように開発を進めてきたのでしょうか?

吉野権利取得以降は我々シリコンスタジオのチームが、開発・サポートを行っています。

元々Geomericsにいたエンジニアも弊社に移ってきていましたが、今はほとんどが新しい人員で構成されています。

――シリコンスタジオが提供する「Mizuchi」や「YEBIS3」といったミドルウェア群との棲み分けや、補完関係などについても教えてください。

吉野同じグラフィックスのミドルウェアですが、担当する部分はそれぞれ別々です。「Mizuchi」はレンダリングエンジンになりますので、描画の根本的な部分を担うことになります。一方で「YEBIS3」はポストエフェクトを中心に扱うミドルウェアです。描画する映像を加工するといいますか、被写界深度やボケといった表現を一度作った画面に後から付け加えることができます。

「Enlighten」はグローバルイルミネーションに特化しているので、それらとはまた異なるツールになってきます。「Mizuchi」のようなレンダリングエンジンや、Epic Gamesさんの「Unreal Engine 4(UE4)」のような開発各社独自のエンジンなどにもレンダラーがあると思うんです。そこにグローバルイルミネーションの効果だけ乗せるために使うのが「Enlighten」です。

――基本的なサポート体制はどのような形なのでしょうか?

吉野国内海外問わず「Enlighten」をご利用いただいていますが、国内に関しては必ずしも日本人ではありませんが、日本語でのコミュニケーションが滞りなく行えるものが担当しており、メールを中心に日本語でのサポートを行っています。

そこがGeomericsからシリコンスタジオに権利が移管されて大きく変わったポイントのひとつです。これまでは外国語でやり取りするしかなかったのですが、ユーザーの方からすると日本語でサポートを受けられるメリットは凄く大きいと聞いています。ドキュメントも日本語のものが少しずつきています。

――海外と日本のユーザーの比率はどうなっていますか?

吉野現状は日本のほうが多い傾向があります。評価に関しても日本の企業からの依頼が多いですが、もちろん海外でもいくつかのプロダクションで評価いただいているので、どちらかに絞ってやることは考えていません。

――「Enlighten」はACT、RPG、スポーツと名だたるタイトルでの導入実績がありますが、どのような点がデベロッパーに評価されているのでしょうか。

吉野「Enlighten」以外にリアルタイムイルミネーションのミドルウェアが無いような状態なので、ダイナミックなライティングを高いクオリティで実現したい場合はある意味唯一のソリューションとして選択して頂いているのかなと思っています。

過去のセッションや講演でも色々お話ししてはいるのでどのように実装されているのかイメージのついているエンジニアさんもいると思うのですが、それをゼロから作って実際に組み込むには時間もコストもかなりかかってしまいます。

開発現場のタイトなスケジュールのなかでそれらを用意するのは大変で、だからこそ「Enlighten」はコストとクオリティのバランスの部分も評価して頂けているのかなと。グローバルイルミネーション一点に特化して作られているので、その部分だけミドルウェアに任せるといった判断がし易いのではないかと考えています。

――ゲームの描画がリアリティを高めるなか、“光”の表現が非常に重要になっていることが今までのお話のなかでわかりました。では、現状についてどのように捉えていますか?

吉野ゲームはひとつのメディアに色々な要素が合わさって完成するものだと思っています。実は私は、ミドルウェア開発の前はゲーム開発に携わっていたのですが、その頃からグラフィックスやサウンド、最近だと触覚へのフィードバックだったり、五感に訴える様々な要素がひとつになってゲーム体験ができていると思っています。

ただ、その中でグラフィックスが占める割合は少なくはないとも思っています。新世代へ進むにつれてどんどん新しい技術が入ってきていて、これがわかりやすいゲームの進化の指標ではないでしょうか。そういった中で次世代機のリリースが迫っており、現世代との差が見えてきて欲しいというユーザーからの期待や、作っている側としてはチャレンジのし甲斐がある部分だなとも感じています。

ゲームに限らずCG表現は長らく色々な研究が重ねられてきていて、複雑な現象だからこそちょっとした違和感が大きな影響になることがあります。そこがユーザーがゲーム体験により没入できるかどうかの争点になります。だからこそ疎かにはできないですし、ちょっとずつでもより自然な結果が出せるよう研究を重ねる必要があるのかなと。

また昨今はゲーム開発の規模がどんどん大きくなっているのですが、ゲームを実際に動かすときだけでなく、ゲームを作っている際のパフォーマンスも大事な要素です。

以前CEDECでコナミさんの『ウイニングイレブン』の事例を紹介させて頂いた際の話と被ってはくるのですが、ゲーム開発者の方々にとってどうしても手間が掛かってしまう部分である“ライティング調整”の効率化は重要です。工数を削減しつつクオリティアップが実現できるよう、より良いワークフローを構築していかなければなりません。


「Enlighten」の現状と未来


――「UE4」への対応状況、Unityの現状についても教えてください。

吉野「UE4」については現状4.24までは対応済みで、先日リリースされた4.25へのアップデート作業をチームで行っているところです。「UE4」のパッケージはホットフィックスバージョン0に対するインテグレーションが基本になります。

当社WebサイトのFAQやドキュメントにも記載されているので、Unityには「Enlighten」が組み込まれているのは周知の事実かとは思うのですが、「UE4」とは事情が違い、そちらは当社が提供・対応している訳ではありません。だからUnityでどのように使われているのかというのは、把握し切れていない部分があります。組み込まれたのは我々の権利取得前だったので、残念ながら正確な情報は把握していません。

――スクウェア・エニックスの『NieR:Automata』など、内製エンジンで開発されたタイトルでの活用事例や、ユーザーからのフィードバックの状況はいかがでしょうか?

吉野公開されている事例ですと『NieR:Automata』の他には、バンダイナムコエンターテインメントさんの『GOD EATER 3』になります。内製エンジンへのインテグレーションは「UE4」とは違ってどう組み込むのかの部分で知識が必要になるので、定期的に先方の会社を訪問させていただきミーティングを繰り返しました。ただしこれは何も内製エンジンに限った話ではなく、「UE4」のユーザーさんともこまめに現状の課題を共有したりして対応しています。

――ユーザーとのやり取りの部分についてですが、現状リモートなどで今までと変わらず作業できているのでしょうか?

吉野既存ユーザーのみなさんとはビデオ会議であったりメールでのやりとりであったり、土台ができた状態なので現状で上手く回せていると思います。今後の課題は新たなユーザーさんたちです。

「Enlighten」を想定する際エディター上でどういう操作ができて、どんな設定をすれば上手く扱えるのかという部分。ここについては色々な会社に訪問して直接実機をお見せしつつ、これまではレクチャーをしてきました。その辺りが少し難しくなっているので、ここは新しいユーザーの方にとってのハードルが上がっている部分なのかなと思っています。

「Enlighten」チュートリアル動画

その課題に対応するため、新たな取り組みを進めており、先日はYouTubeにチュートリアル動画をアップしました。そういった所を充実させていき「Enlighten」を使ってみたい方や使い始めた方へのフォローをしていきたいと考えています。

定期的にやり取りさせていただいているクライアントさんに関しては、現状のリモート環境でもある程度開発を滞りなく進めていると聞いています。エンジニアの作業はリモートでやりやすいと思うのですが、ゲーム業界だと実機での動作の部分があるので中々厄介なんです。各自の環境によって差があるので、上手くいっている部分とそうでない部分の両方がある形ですね。

――先日発表された「Unreal Engine5(UE5)」については対応されていくのでしょうか?

吉野対応する可能性は充分にあるのですが、我々としてもまだ充分な情報が手元にないので、もう少し開発者向けに情報が公開されてからの判断になりそうです。

――現状、次世代機での開発にも「Enlighten」は用いられているのでしょうか?

吉野ミドルウェア開発の我々としては、ゲーム開発者の方々は大きな顧客になっています。当然次世代機での開発にも対応する必要があるため、今後対応を進めたいと思っています。次のバージョンの大きな目玉になるのかなと。

――昨今話題になっている“リアルタイムレイトレーシング”は、「Enlighten」とどのように結びつくのでしょうか?

吉野ここ数年でリアルタイムレイトレーシングはホットな話題になっていると思いますが、実際にどのようなシーンで活用していくかはまだまだ試行錯誤の段階にあります。その中での答えが反射の表現や影の計算部分などで、こういった使い方ができますと提示できるようになっているところです。

グローバルイルミネーションについては、光の追跡の積み重ねであるので、レイトレーシングでリアルタイムに全部計算できるのではないかという議論もあります。実際に「Enlighten」でも事前計算の際にレイトレーシングを使っていますが、
これに関してリアルタイムレイトレーシングで代替可能なのかというと、近い将来ではまだ難しいと考えています。なぜならグローバルイルミネーションは非常に複雑な光の反射を扱うためです。

光の反射を1回に限定するなどした上で単純なシーンで取り扱うことは十分に可能です。しかし、オープンワールドのゲームのような非常に大きく複雑な空間で複数回の反射を表現するにはそれに応じて必要な計算負荷が大きくなります。実際のゲーム内でそのようなバジェットが用意できるかというと、まだまだ当分は足りないのかなと。

ゲームは正確であることが絶対条件ではないので、限られた反射でも十分であるシーンもそれなりにあるとは思いますが、「Enlighten」による高品質なグローバルイルミネーションは依然として価値があると考えています。その点でレイトレーシングによるグローバルイルミネーションによって「Enlighten」が必要なくなるという事は恐らく無いのではないでしょうか。

レイトレーシングと「Enlighten」については、お互いを上手く活用しながらやっていくのが望ましいのではないかと考えています。例えば今までだとスクリーンスペースで反射の表現をすることが多かったかと思いますが、画面外にあるオブジェクトが映り込まないというデメリットがありました。レイトレーシングを用いた反射表現なら画面外に映っているものも捉えることが可能になります。

それを捉えた後、鏡面に映りこむオブジェクトを描画する時に間接光を考慮する場合、「Enlighten」を用いることで更にクオリティをあげることができます。このようにリアルタイムレイトレーシングと「Enlighten」を組み合わせるのは容易ですし、他にも活用できる場面があるだろうと我々開発チームでも研究を進めているところです。

またレイトレーシングを組み合わせて「Enlighten」のクオリティをあげることはできないかというチャレンジも行っており、近々この成果をお見せしようと試行錯誤中です。詳細はまだお話できませんが、両方を活用して更に一歩先の表現ができないかなと。


――最後に「Enlighten」の今後のロードマップがあれば教えて貰えますか。

吉野直近だと「UE4.25」への対応が進行中です。今後も引き続き「UE4」のバージョンアップの度に都度対応していく予定です。それと並行して「Enlighten」のSDKの更新も進めています。昨年権利が移ってから初のバージョンアップを実施したのですが、今回はそれに続くバージョン3.11となります。

次期バージョンの目玉は、次世代機への対応かなと思います。その他の細かい部分でサンプルなどの充実でしょうか。今年の夏くらいには公開できればと思っています。加えて今はオンラインドキュメントを公開していますが、「UE4」版に続けてSDK版のオンラインドキュメントの翻訳を進めているところです。今年中に間に合うかは微妙ですが、いずれご案内できればと。

後は継続的にチュートリアル動画だったりブログだったりで「Enlighten」の使い方を紹介できればと考えていて、実際にSDK側のプログラムのアップデートだけでなく、ユーザーがラーニングする過程も充実したいですね。

――ありがとうございました。

「Enlighten」公式サイト




現在GameBusiness.jpでは開催しているオンラインイベント「Game Business Expo」では、本稿でご紹介した「Enlighten」のほか業界関係者に向けたツールやサービスの紹介を展開しており、6月26日(金)には合計6のオンラインセッションを予定しています。ぜひ下記よりお申し込みのうえご参加ください!

《井上顕太郎》

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