PS5向けアクセシビリティデバイス「Accessコントローラー」はどのように使うべきか―重度身障者ゲーマーにプレイしてもらって見えてきた“課題点”【インタビュー】 | GameBusiness.jp

PS5向けアクセシビリティデバイス「Accessコントローラー」はどのように使うべきか―重度身障者ゲーマーにプレイしてもらって見えてきた“課題点”【インタビュー】

「上虎寝たきりゲーム研究所」の上虎さんに「Accessコントローラー」を使ってもらい、その感想をお聞きしました。

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PS5向けアクセシビリティデバイス「Accessコントローラー」はどのように使うべきか―重度身障者ゲーマーにプレイしてもらって見えてきた“課題点”【インタビュー】
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2023年12月6日より発売を開始したPS5向けデバイス「Accessコントローラー」、本デバイスは身体にハードルを持つ障がい者の方々に向けて開発されたアクセシビリティデバイスです。そこで本記事ではご自身が障がいを持ち、「上虎寝たきりゲーム研究所」としてネット上で活動されている上虎氏に「Accessコントローラー」を実際に使用してもらい、その感触についてメールインタビューを実施しました。

上虎氏は「デュシェンヌ型 筋ジストロフィー(略称:DMD)」という難病と闘っているゲーマーで、寝たきりの状態でありながら様々な工夫をもってゲームをプレイされ、その工夫を他の方々に伝える活動をしていらっしゃいます。

今回は本記事作成にあたってSIEから上虎氏に「Accessコントローラー」が2台贈与され、時間をかけてAccessコントローラーをプレイしてもらうことが可能になりました。「Accessコントローラー」の特徴のひとつは“敷居の低いアクセシビリティデバイス”であるということ。身体的ハードルがある方でも「これのみで始めてのゲームができる」コントローラーと言えるでしょう。



しかし同時にインタビューを通じて、本デバイスの課題点というものが見えてきたのも事実です。一口に「身体的ハードル」といっても、人によって状況は様々。そしてアクセシビリティの問題はだんだんと老いて身体機能が低下する全ての人にも関わる事柄です。どのような状態で現時点の「Accessコントローラー」が機能してくれるか、ぜひとも判断の一助になれば幸いです。

◆「工夫の内容をネットに残しておけば他の障害者ゲーマーの参考になるのでは」

――まずは、上虎さんがどのようなゲーマーであるかということを含めて“ゲーム遍歴”についてお伺いできれば幸いです。

子供の頃からゲームが大好きでしたが、進行性の病気の影響で、中学生~高校生ぐらいからゲーム機のコントローラーを手で持って保持したり指でボタンを押したりする動作が難しくなり始め、20代前半には完全にできなくなり、「自分はもうゲームできないんだ」とゲームを諦めていました。ただ、マウスは使えたため、PCを操作する事はできました。当時はWindowsXPでしたね。

これも進行性の病気の影響ですが、キーボードはもう既に使えなくなっていたのでマウスのクリックでキーボード入力ができる「スクリーンキーボード」あるいは「ソフトウェアキーボード」と呼ばれるソフトを利用して文字入力をし始めました。「スクリーンキーボード」の方に関してはWindowsに最初から入っているので、興味がある方は触ってみてください。そして、このスタイルは現在も続いています。

それで、当初はPCゲームを探したのですが、「スクリーンキーボード(ソフトウェアキーボード)」は一度に1個のキーボード入力しかできないためにゲームをするには限界がありました。

当時のPCゲームにはウィンドウモードが用意されていないケースも結構あった記憶があります。フルスクリーンモードだと、そもそも「スクリーンキーボード(ソフトウェアキーボード)」を表示させる事が不可能なんですよ。

ですので“マウスだけで操作が完結するノベルゲーム”ばかりをやっていましたね。ノベルゲームには、ほぼほぼウィンドウモードが用意されているという理由もありました。

他のゲームで言うとPC版『空の軌跡FC』『空の軌跡SC』『空の軌跡 3rd』にはめちゃくちゃハマりました。このゲームは、“マウスだけで操作が完結するゲーム”かつ大好きなジャンルである「JRPG」のゲームでしたので!

ちなみに余談ですが、その後このシリーズはPSPやPS3に移行して絶望したり……『零の軌跡』『碧の軌跡』にはPC版が中国語版しかなくて、強引に日本語化したら部分的に中国語が残って残念な思いもしました。

そして「Titan One」というPCから入力できる特殊なコンバーター(キーボード入力、マウス入力、画面上のボタンのクリックによる入力が可能)の登場に歓喜したりと色々ありましたが、今でも最新作を遊び続けています。

元々ゲームが大好きだったので、「もっと色々なゲームをやりたい!!」という気持ちが抑えられず、ダメ元でPCならではの色々な工夫をし始めました。

たとえば「サイドボタンが豊富なマウスを使う(色々試しましたが最終的にLogicool「G600」に落ち着きました)」「持っていたPS2の変則コントローラー・HORI「セパレートコントローラー」に数個だけ押せるボタンがあったため、USBに変換した上で「JoyToKey」というソフトでキーボード入力に変換(今も使っています)」といったことから「フリーソフトのマウスのユーティリティソフトを使う(今は使っていません)」「マクロを組む(今も使っています)」といった具合です。

これらの工夫でアクションゲームもある程度はできるようになったため、PC版『バイオハザード』シリーズやPC版『GTA』シリーズなどを順番にやっていきました。

そして数年後に、先ほど述べた「Titan One」というPCから入力できる特殊なコンバーターが登場したわけです。これが最大の転機となり、これでPCゲームでやっていた色々な工夫をゲーム機に逆輸入できるようになりました。「自分はもうゲームできないんだ」と諦めていたコンシューマーのゲームが再びできるようになったのです。

さらに、この「Titan One」は最初はPS3/PS4対応でしたが、のちにアップデートでニンテンドースイッチやPC版PSリモートプレイに対応しました。一方で、PS5に関してはコンバーターが使えません。PCもしくはPS4にコンバーターを接続した上で、PC版もしくはPS4版「PSリモートプレイ」をする場合のみ、PS5でもコンバーターが使えます。

自分は「Titan One」もしくは「Titan Two」という、PCから入力できる特殊なコンバーターをPCに接続した上で、PC版「PSリモートプレイ」でPS5をプレイしています。PC版「PSリモートプレイ」の画面は見ずに、PS5が映像出力しているモニタの方を見るようにしています。そうする事で表示遅延はなくなりますし、入力遅延も体感的には分かりません。

そうして色々なコンシューマーゲームをやっていく内に“工夫の経験値”が溜まっていきました。この工夫の内容をネットに残しておけば他の障害者ゲーマーの参考になるのではと思い、ブログを開設し、たまに動画を作ったりしています。自分が死んだら誰にも伝わらずに終わっちゃうので、それはもったいないなとも思ったんです。

PC+コンバーターについての内容が多いですが、最近は各社から障害者向けコントローラーが出たのでそれについても書いています。あとは、今も手の残在機能は低下し続けていっているので、将来的には視線入力も取り入れていく予定です。最近は視線入力という方法もあるんですよね。

本当は「GIMX Adapter」「Cronus Max Plus」「Titan Two」などについての話もあるのですが、長くなるので割愛します。

――「デュシェンヌ型 筋ジストロフィー(略称:DMD)」という病気についてお教えいただければ幸いです。

筋ジストロフィーは年齢とともに全身の筋力が低下していく進行性の病気で、「進行性」というのが大きな特徴です。筋ジストロフィーには色々な型がありますが、「デュシェンヌ型」は最も症状が重くなる型ですね。

「筋力」と聞くと体を動かす筋肉を想像すると思いますが、呼吸や嚥下(飲み込み)なども筋肉によって行われる動作ですし、心臓なども筋肉で動いています。そのため、これらの筋肉も影響を受けるのです。ただ、嚥下(飲み込み)や心臓に関しては個人差が大きいように感じます。

全体的な事を言うと、小学生の時に徐々に歩けなくなっていき、中学生から車椅子を使い始め、20代前半に座位が難しくなったため寝たきりになりました。

手の動きに関しては、現在は「腕は全く動かせない」「指と手首はわずかに動かせるが力はかなり弱いため、押せるボタンは非常に限られてくる」という感じです。

呼吸に関しては、20代前半に呼吸状態が悪くなったため「NPPV」と呼ばれる鼻マスク式の人工呼吸器を使い始め、20代中盤にはさらに呼吸状態が悪くなったため気管切開の手術を受けました。

現在は気管切開孔(手術で首に開けた穴)に挿入された「カニューレ」と呼ばれるチューブに人工呼吸器を接続して呼吸をしています。24時間使っていて、自発呼吸はありません。

嚥下(飲み込み)に関しては、同じく20代中盤に誤嚥性肺炎を繰り返すようになったため、食べ物・飲み物の経口摂取を全面的に中止し、最初は経鼻栄養チューブ留置(胃まであるチューブを鼻から入れ、入れた状態で置いておく)で栄養剤の注入を開始し、のちに胃ろう(PEG)造設の手術を受けました。

現在は胃ろう孔(手術でお腹に開けた穴)に挿入された胃ろうカテーテル経由で栄養剤を注入して食事の代わりとしています。

――「ゲームへの敷居の高さ」は今までどのような形で存在していましたか?

やはり、ゲーム機のコントローラーを使えない事です。連射や長押し、同時押しなどが年齢とともに難しくなっていき、最終的には手で持つ事ができなくなりましたね。

Accessコントローラーを使って見えてきた“課題点”

――今回、アクセシビリティデバイスであるAccessコントローラーを使われてみてどう感じられましたか?

コンバーターが使えないPS5においては、物凄く大きな意味を持つ製品だと思います。今までは「ソニーは身体障害者ユーザーに関心が無いのかも」という印象だったので……。

その点について詳しく説明しますと、コンバーターは普通のゲームコントローラーを使えない水準の身体障害を持つ障害者がゲーム機で遊ぶための必須アイテムで、障害の特性に合った特殊なスイッチやボタンを選択したりする事ができるわけです。そのコンバーターがPS5では使えないため、身体障害者ゲーマーから敬遠されていました。

自分も「コンバーターの締め出しは一般ユーザーのチート対策なんだろうけど、代替手段も用意されていないし、身体障害者ユーザーは置いてけぼりだな……」と思っていました。

それが冒頭で書いた「今までは「ソニーは身体障害者ユーザーに関心が無いのかも」という印象だった」に繋がります。Accessコントローラーはその「代替手段」にあたる製品です。「代替手段」が初めて製品化されたという事もあり、冒頭で「物凄く大きな意味を持つ製品」と書いたのです。

ただ一方で、率直に言うと不満も大きいです。これは拡張性についての項目で述べますね。僕が意見を言える立場なら良かったのに、とも思います。

別ハードでいうならニンテンドースイッチ用障害者向けコントローラー「Flex Controller」なんですが、これはサードパーティー製だからというもあるかもしれませんが、手が全く動かない障害者でもPCと連携して、視線で入力ができるという攻めた製品になっています。

純正機器では難しい機能かもしれませんが、サードパーティー製として認可するとか、将来的にいつか視線入力に対する展開が欲しいかなと思います。

――Accessコントローラーのレイアウト(ボタンマッピング)変更機能、カスタマイズ機能についての感想をお聞かせください。

同じ疾患でも障害の程度には個人差があるので、「障害の程度の幅に対応できるようにしてその個人差的を吸収しよう」という設計思想は良いなと思いました。

ただ一方で、想定が「腕はある程度は動かせるが指の動きに不自由さがある」疾患の人に限定されているように見えてしまい、残念にも思いました。筋ジストロフィー患者の方も開発に参加しているようですが、もう少し詳細に、筋疾患や神経疾患の専門団体などにもヒアリングして欲しかったですね。もちろん、僕に声を掛けていただいたら喜んで協力します。

PS5側の設定であったらいいなと思った機能は、「連射」「ボタンにもスティック上下左右を割り当てを可能にする」「3個目、4個目のAccessコントローラーを認識できるようにする(両手の他に足も使いたい障害者ユーザーがいると思うので)」といった所でしょうか。

――別売の端子によってAccessコントローラーは拡張性を持ちますが、そちらについてもお聞かせ願えれば幸いです。

率直な感想を言わせてもらうと、外部接続端子4個は少な過ぎますね。スイッチ用障害者向けコントローラー「Flex Controller」、Xbox用障害者向けコントローラー「Xbox Adaptive Controller」ともに全ボタンに外部接続端子が用意されているので、それに倣いながら「Accessコントローラー本体のボタンも工夫する」という形にすれば「いいトコ取り」ができたのにな、と思いました。

障害の程度が「Accessコントローラー本体のボタンを押せる」障害者をメインに想定されていると感じます。「障害の程度がもっと重度で、Accessコントローラー本体のボタンを押せない人は外部接続端子で自由にカスタマイズしてね」という視点も欲しかった所ですね。

そうすればもっと幅広い範囲の障害に対応できる完璧な障害者向けコントローラーになったと思います。後は、スティック用の外部接続用USB端子も必要でしょう。

――このAccessコントローラーでどのようなゲームをプレイしましたか?また、プレイ体験はどうでしょうか?

『バイオハザード RE:4』をやろうとしたのですが、自分は「障害の程度が重度でAccessコントローラー本体のボタンを押せない人」側に入るため、外部端子4個×2台=計8個のボタンのみになってしまい、ボタンが足りませんでした。

ですのでAccessコントローラーをPCに接続後、「JoyToKey」というソフトでキーボード入力に変換しました。その後「Titan One」もしくは「Titan Two」を接続してPC版「PSリモートプレイ」を経由させるという流れで、今まで使ってきた他の入力手段に「Accessコントローラー」を加えて使っています。

――Accessコントローラーは、今後アクセシビリティデバイスが必要な方々にどのような影響を与えると感じられたでしょうか。

障害の程度が「Accessコントローラー本体のボタンを押せる」障害者ユーザーであれば、今まで諦めていたPS5ができるようになるので障害者ユーザーは増えると思います。

――話は少し変わりますが、上虎さんは今後、どのようなゲームをプレイされる予定なのでしょう。

『龍が如く8』『FF7リバース』『界の軌跡』などを遊びたいですね。

――ありがとうございます。最後に、Accessコントローラーに関わらず、上虎さんが“ゲーマー”として挑戦していきたいことなどをお聞かせ願えれば幸いです!

今までやってきた、障害者でも使えるゲーム機やPCのゲームへの入力手段を研究して発信したり、他の障害者からのゲームへの入力手段に関する質問や相談に答えたりする活動を、これからも続けていきたいです。

また、健常者ユーザーでも簡単ではない「『バイオハザード』シリーズと『GTA』シリーズのトロフィーコンプリート」を今までやってきたので、今後も継続していきたいです。2025年に発売される『GTA6』が楽しみです!

あと、『界の軌跡』もトロコンします!

――今回は、ありがとうございました!


あらためて、Accessコントローラーは身体的ハードルがある方でも「これのみで始めてのゲームができる」コントローラーです。SIEは全盲のプレイヤーでも遊べるようにした『The Last of Us Part II』など、ソフト、ハード両面でアクセシビリティへの対応を推し進めていますし、それは筆者自身発表会を取材させて貰った際に体感しました。しかし今回、それではまだ及ばない“難しい現実”もあると知ることができました。

当事者である上虎氏から頂けた貴重なインタビュー、SIEが発表会の際に発言していた「発売後も継続的に皆様の声を聴いて、課題を取り除いていきたい」という方向性をふまえても、重要な意見となるはずでしょう。

「全てのプレイヤーがアクセシビリティデバイスによってゲームを楽しめる」という環境を作り上げていくことは、ゲーム業界が課題として取り組み続けていくべきことだと感じます。

ご自身がそうである方はもちろん、今現在、まわりにゲームプレイが困難な方がいる方も「上虎寝たきりゲーム研究所」で発信されている“ゲームをするための工夫”を参考にしながら、遊ぶことをやめないでみてはどうでしょうか。

「Access コントローラー」の価格は12,980円(税込)。現在、各販売店で販売中です。

《高村 響@Game*Spark》

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